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朝大で国際シンポジウム「朝鮮半島の今を視る」/関係国の政策も見極め分析、展望

2021年11月22日 08:11 対外・国際

朝鮮大学校創立65周年、朝鮮問題研究センター設立10周年記念国際シンポジウム「朝鮮半島の今を視るー『膠着』打開に向けてー」が16日、朝鮮大学校講堂で行われた。

センターでは、朝鮮半島情勢が新たな転機を迎えた18 年6月と19 年6月に講演と討論会「対決から平和へ」を開催。今回のシンポジウムはその第3弾となる。

シンポジウムでは、朝鮮新報社の金淑美記者の司会で朝鮮大学校の李柄輝教授と廉文成准教授、東洋学園大学の朱建栄教授、恵泉女学園大学の李泳采教授が、北南朝鮮と関係国の内政と外交政策を見極めながら現朝鮮半島情勢を分析し展望について論議を深めた。シンポジウムには朝大の学生、教職員と学外参加者100人を含む265人が参加した。また3時間半におよぶシンポジウムの模様は、事前申請のあった120人に向けてライブ配信された。

まず韓東成学長があいさつに立った。

学長は11 年11 月に設立した朝鮮問題研究センターが、海外における朝鮮研究拠点の構築に向けて学術研究の深化と関係資料の蓄積に努めるとともに、立命館大学コリア研究センター、同志社大学コリア研究センター、中国・延辺大学朝鮮半島研究院との学術交流協定にもとづく共同事業をはじめ、南朝鮮の建国大学校と韓信大学校、中国海洋大学、ロシア極東連邦総合大学、カザフスタン国立大学等、各国の大学との研究交流を進めてきたことを振り返り、創立65 周年を迎えた朝鮮大学校は今後も、朝鮮半島に平和と繁栄、統一の新時代が訪れることを展望しながら、朝鮮問題研究センターを拠点として世界の大学との交流を積極的に展開し、「朝鮮民主主義人民共和国の海外同胞大学」「オンリー・ワン大学」としての価値を発信していく決意を述べた。

国際シンポジウム「朝鮮半島の今を視るー『膠着』打開に向けてー」が朝鮮大学校で行われた。

シンポジウム1部では4人のパネラーがそれぞれ報告を行い、2部では米中対立が及ぼす朝鮮半島情勢への影響や今後の朝・日関係などをテーマに活発な議論が交わされた。

1部ではまず、李柄輝教授が「朝鮮労働党第8回大会後、朝鮮の内外政策」と題して報告した。李教授は金正恩時代10年史と今年1月の党第8回大会の意義を振り返ったうえで、朝鮮の政治思想的力量と、防衛力の強化、経済建設など対内政策ついて解説した。対外政策については、朝鮮は自らの力で情勢を管理していく意思を表明したとし、米国と軍事的拮抗を保つためそれに見合った軍事技術の向上に努めていると分析。今後の課題として、米南合同軍事演習の中止や米国の2重基準および敵視政策の撤回をあげた。

続いて、「バイデン政権の朝鮮半島政策」と題して報告した廉文成准教授は、朝鮮半島政策に関するバイデン大統領や大統領報道官などの発言を紹介し、圧力を加えることではないという一見ソフトなアプローチで発言していることが確認できるとした。しかしソフトなだけで、政策の基調はトランプ政権とあまり変わりないとし、目指しているのは朝鮮の一方的な核放棄だと強調した。また現在の膠着状況は長期化すると展望した。

次に、「『中国人民はトランプに感謝する』/中国の朝鮮半島政策の展望」と題して報告した朱建栄教授は、今年1月頃、中国のSNS上の「我々はなぜトランプに感謝するのか」という記事が話題を呼んだとし、中国を叩き潰す意図を剥き出しにしたトランプ大統領によって中国人民を覚醒させた一方、「一帯一路構想」が世界に広く理解されるなど、結果的に中国を助けたと説明。中国は対米戦略上、安全保障上で朝鮮半島の重みを一段と認識するようになったとし、中朝関係がより緊密になっていると話した。

最後に、「韓米首脳会談と文在寅政権の対北政策」と題して報告した李泳采教授は、今年5月の米南首脳会談における合意事項をおさらいしながら、文政権は残り5カ月の任期期間中に南北関係を維持しながら米朝首脳会談あるいは関係改善まで持っていけるかそのチャンスを狙っていると述べた。

国際シンポジウムの出演者たち(左から李泳采教授、廉文成准教授)

朝鮮半島情勢との関連性

2部の討論ではまず朝鮮大学校の廉文成准教授が米中対立と朝鮮半島情勢の関連性に触れた。

廉文成准教授は、「米国と中国が共通点を見出せる分野として日本のメディアでよく言われるのが朝鮮半島の非核化で、朝鮮に核放棄させることにおいて米中が手を結ぶことができるのではないかという希望的観測がある」「しかし米中がまったく同じ立場に立って非核化を求めているかというとそうではない」と指摘した。

続けて、米中の朝鮮半島政策はまったくかみ合っていないとし、「中国は互いを尊重し戦略的相互関係を維持することこそが地域の安定につながるという立場に立って、地域の安全を確保するうえで米国の軍事的な圧力をまずなくさなければならないというスタンスだ。これに関しては朝中が一致している部分であり、米中が一致していない部分だ」と説明した。

また、仮説として「米国の軍事的圧力が収まり一定程度停戦体制が崩壊する方向に行くのであれば、米中対立が緩和する可能性はある」としつつ、「しかし米国からすれば損をする部分が多い。朝鮮半島情勢の緊張状態があり、一定程度朝鮮を封じ込めることができて、そして朝鮮戦争の継続に基づいて構築されている体制を利用することによって自らの権益を確保する方向で国家安全政策が実行されている現段階では、そのような動きを期待することは難しい」と話した。

東洋学園大学の朱建栄教授は、中国の朝鮮半島政策について述べた。

まず朝中関係について、「安全保障面で共通の利益があり、同じ社会主義同士としても相互に学び合い助け合う関係だ。政治経済面でも協力し、外交面でも相互支持し、基本的には関係が安定すると見ている」と述べた。

一方南朝鮮との関係について「中国は、朝鮮半島問題は朝鮮民族、南北が主体になって対話し自主的に解決していくという立場だ」と前置きし、「従って、韓国も朝鮮半島問題の主体なので、友好関係を持ち、南北朝鮮の対話を促進させたいというのは一貫している」とした。

朱建栄教授は、「おそらく中国は数年前まで自国の安全保障と関連し、朝鮮半島を含めて米国がイニシアティブを取ることを黙認していた。米国が主張する非核化に中国もある程度協調した。しかし今は朝鮮半島問題で米国に主導されたくない。米国がこれをもって中国に対する包囲網をつくることに警戒感が高まっている」とし、そういう意味で南北の主導的役割を重視する方向だと述べた。

国際シンポジウムの出演者たち(左から朱建栄教授、李柄輝教授)

変遷する国際秩序

朝鮮大学校の李柄輝教授は、「金正恩総書記は米中対立、大国の遠心力をうまく管理しながら朝鮮にとって良い方向に活用していこうという戦略を描いているのではないか」と持論を展開した。

1960年代後半に朝中関係は冷え込んでいたが、69年の佐藤・ニクソン会談における共同声明に「台湾の安全は日本の安全にとって極めて重要な要素である」とする、いわゆる台湾条項が盛り込まれたことで、周恩来首相が平壌に飛んできて関係修復した話を紹介したうえで、「このように周辺の動きを自らの良い方向に活用していくという外交の知恵を朝鮮は常に活用してきたが、今がまさにそういう局面ではないか」とした。

米中関係が悪化したことで、北南関係は後退したが、逆に、朝中の社会主義連帯を強化したとし、中国がロシアと共に国連安保理の対朝鮮経済制裁の緩和を求めていることを紹介。このような形で米中の対立構図を朝鮮は自らの利益の中で活用する戦略に進んでいくという見解を述べた。

また、朝鮮が核実験する可能性についての会場からの質問に、中ロが、朝鮮が核とミサイルのモラトリアムを公約通り続けているとして制裁緩和を求めている状況で核実験する可能性はほぼないとした。

恵泉女学園大学の李泳采教授は米中対立に対する南朝鮮の立場について述べた。

李泳采教授は、南は今まで安全保障は米国に依存し、経済は中国と連携を強化する形で使い分けをしてきたとしながら、米国の迎撃システム「サード(THAAD=高高度防衛ミサイル)」の南配備問題で、中国が南に経済制裁を加えたことに言及。「中国への経済依存がどれだけ危険なのか教訓になった。サード以降の中韓関係はいまだに完全回復されていない」とした。一方米国は、「明らかに自国の利益で動き、同盟国ということだけで援助、支援する国でないということも明らかになった」と話した。

そのうえで、「今の新冷戦下では、米国の一方的な覇権主義もきかないし、中国の影響力が米国のそれをすべて上回るわけでもない。まさにリンクされているこの構図は、誰かの一方的な力によって国際秩序が決まらないということだ」と述べ、「米中が朝鮮半島に影響力を及ぼすうえで、必ずしも南北の主張を無視できない」とした。

しかし、「残念なのは、文在寅政権がもっと米国を説得して戦略的に提案すれば南北関係を優先することもできたが、思った以上に親米政策をとってしまったことだ」と話した。

日本の右傾化に警戒

最後に朝・日関係について語られた。

李柄輝教授はさきの総選挙で立憲民主党が議席を減らし日本維新の会が増えたことに触れ、「外交安保の認識について日本の政治世論は非常に右にスライドしたかのような印象を持っている」「朝鮮はその部分に警戒心を抱いているのではないか」と指摘した。

また今年2月、米国のハイテン総合参謀本部副議長が、中国、ロシア、イランにもまして朝鮮のミサイルに最も警戒を示し、米国のミサイル防衛は朝鮮に向けられていると言及したことを紹介しながら、「このミサイル防衛の拠点が日本と南朝鮮だ。日本の敵基地攻撃能力保有論もこの文脈から捉えることができるし、南のミサイル規制の撤廃も同様だ」と述べた。

そして「朝鮮側から見た日本の軍事的脅威が日本国内で実感され、日本の外交安保政策があまりにも右に寄りすぎている、どうやって揺り戻すか、という課題を考えていくべきだ」と強調した。

一方、岸田政権が朝鮮との「無条件の対話」を繰り返し述べていることに対して廉文成准教授は、「日米安保体制が強固になり朝鮮に対する圧力がますます加わっている時点で『無条件』ではない」と一蹴。

朝・日間の懸案が拉致問題しか存在しないような日本社会の雰囲気、また、日米同盟関係に基づく敵基地攻撃能力の保有やイージスアショアの設置問題だけが進んでいく状況に憂慮を示しながら、このような状況では朝・日対話再開は「まったく可能性はない」とした。

討論では日南、日中関係も扱われた。

李泳采教授は、日本で右翼保守勢力が幅をきかせ歴史修正が進んでいる中で「日韓関係は岸田首相個人の考えに関係なく、前進は難しい」という見解を示した。

朱建栄教授は、岸田政権における日中関係はマイナスからのスタートだとしたうえで、日中国交正常化50周年に向けて来年の後半から動きがあるのではないかという見通しを述べた。

(文・姜イルク、写真・黄理愛)

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