〈明日につなげる―無償化裁判がもたらしたもの―〉大阪弁護団(下)


当事者は誰?/「今」を見つめ、現状打開する一人に

入廷行進する関係者たち(18年9月27日の控訴審判決日)

より多くの子どもたちに中等教育を保障する目的で2010年にスタートした高校無償化制度。同制度にかかわる朝鮮高校の現状は、各地での司法闘争が終結したいまも、変わらず「対象外」だ。高校無償化制度による学習権の保障が妨げられたまま卒業した各地の朝高生たちの数は、あれから11年目を迎える今日まで、増え続けている。この緊迫する状況の真っ只中で展開された司法闘争、とりわけ唯一の勝訴判決を勝ち取った大阪での司法闘争の意義を「今」の運動に継承するためには―。

まさかの判決

広島に続く無償化裁判の判決日となった2017年7月28日。いつも以上の群衆が大阪地裁前に集まったあの日、裁判官らが入廷した法廷はシーンと静まり返った。それから間もなくして裁判長が主文を読み上げた。

「文部科学大臣が…」

その瞬間、「横に居た弁護士がグッとこぶしを握り締めた」(玄英昭前理事長)。判決文は、一般的に負けた側が主文の最初に来るという。日本政府を相手にした同裁判で、学園ではない日本政府(文部科学大臣)側が読み上げられたとき、その場に居合わせた関係者たちは抱き合い、握手し、涙を流した。まさに興奮のるつぼと化した瞬間だった。

当時を振り返る関係者らの思いは、それこそ共通していて、思い起こすと「いまでも鳥肌が立つ」と口をそろえる。

「茫然としていて隣に居た丹羽先生に『勝ったぞ』と肩を叩かれた。それで我に返って。喜びが爆発したときには法廷のなかはもう大騒ぎだった」(金英哲弁護士)

「ヘイトスピーチや排外主義が横行する社会で、政府を事実上糾弾したような判決が出たことが信じられなかった」(田中俊弁護士)

社会的な注目が集まった裁判だけに、当時各紙メディアが我先にと学園側の勝訴を報じるなか、国は同年8月10日付で控訴。「まさかの判決」に対応する国と、忖度をいとわない司法の姿勢は、その後の大阪高裁と最高裁が、一審判決で指摘された子どもたちの権利や教育の機会均等に一切触れず、真逆の判断を下したことで顕著となる。

「訴訟指揮が完全に一方的だったうえに判決の内容をみても(朝鮮高校を対象外とする)理屈は書かれていない。結論ありきで、国を勝たせるなりふり構わない判決だった」(金英哲弁護士)

重なる「私の姿」

1審での勝訴判決に歓喜する朝高生(当時)たち

弁護団に名を連ねた16人のうち、6人が在日の弁護士。その一人である金星姫弁護士は試験に合格した直後、丹羽雅雄弁護団長を訪ねて、弁護団会議に参加しはじめた。それから約1年後の14年1月には弁護士として活動を開始し、弁護団の一員となった。

司法修習生の頃には、後に愛知弁護団の一員となる中島万里弁護士とともに、司法修習生の有志らが集まり行う勉強会「7月集会」で高校無償化問題を取り上げるなど、かねてから「自分なりにできることをやろう」と行動してきた同氏。それは、自分がこの問題の当事者でもあり、後輩たちをとりまく状況が、過去に経験した自身の状況と重なったからだった。

金星姫弁護士が大阪朝高に通ったのは、大学受験資格の問題*¹が取りざたされた00年代前半。一方で、情勢が激動したこの時期は、2002年に小泉純一郎首相(当時)と金正日総書記との首脳会談が行われ、同年9月17日に朝・日朝平壌宣言が調印された際、「拉致問題」が大々的に取り上げられたことで、何ら関係のない朝鮮学校にもバッシングが向けられた。

金星姫弁護士

他方でこの年は、大阪朝高が学校創立50周年を迎える年だったため、9月末頃には50周年記念行事が予定されていたという。そのようなさなか「学校への脅迫電話や生徒たちへの嫌がらせも多発して先生たちの緊張感が伝わってきた。行事の開催も危ぶまれるなど、自分たちが置かれた状況が時々の情勢でこれほどにも変わるんだというのを幼いながらに目の当たりにした」と金弁護士。これがきっかけとなり、漠然と抱いていた弁護士という夢を「具体的に考えるようになった」。

一方、1999年4月に朝鮮大学校政治経済学部に法律学科が創設されたのも影響し「在日同胞の権利問題を前線でやるためには朝大に行こう」と同大へ進学した。その後08年3月に卒業し、同年4月には立命館大学法科大学院に入学。3年間の勉強を経て、2回目の司法試験で合格し、晴れて弁護士となった。

同氏は、裁判に携わった理由をこのように語る。

***************************************

※この続きはログインすれば閲覧できるようになります。

会員の方は、右か下にある「ログイン」項目にてログインしてください。

会員登録ご希望の方は、画面右上にある「会員登録」をクリックしてください。

ログインフォームへ