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〈本の紹介〉ドイツの学校にはなぜ「部活」がないのか/高松平藏著

2021年08月28日 09:00 コラム

「社会の一部」としてのスポーツ

晃洋書房(TEL075-312-0788)
1980円

日本の学校で部活動をめぐる問題が顕著になって久しい。部員間のいじめや指導者による体罰、また、授業と平行し部活を指導しなければならない教員らの過酷な労働環境も深刻だ。本書では、ドイツ在住のジャーナリストである著者が、ドイツのスポーツクラブを例に、部活動の問題点、スポーツや社会のあり方について述べている。

ドイツの子どもたちは、地域ごとに運営されるスポーツクラブでスポーツを楽しむのが主流だ。日本の部活動が学校内で完結するのに対し、スポーツクラブは子どもたちだけではなく大人たちも所属し、幅広い世代がともに交流しながら汗を流している。

本書を読み進めると、「体育会系」か「非体育会系」か、「閉鎖的」か「社会的」かという所に、両者の決定的な違いがあることに気付く。

「体育会系」文化が色濃く残る日本の部活では「勝利至上主義」や「先輩・後輩システム」などにより子どもたちが純粋にスポーツを楽しめず、理不尽な環境で悩みを抱えることが多い。また、日本の部活が「タコツボ型」であるが故、学校が唯一の「社会の場」となり、視野狭窄の原因にもなりかねないと著者は指摘する。

一方、ドイツのスポーツクラブにはむろん「体育会系」の文化はなく、純粋にスポーツを楽しむ場として提供される。老若男女多様なバックグラウンドもつ人が所属するため、さまざまな交流や相互理解が生まれる。しがらみなく体を動かす「豊かな時間」が子どもたちの健やかな成長を促すのはもちろん、他者への尊重や共感力、コミュニケーションスキルといった「社会的能力」を育む有意義な空間となっている。

著者はスポーツを「社会の一部」としてとらえることが重要だと述べる。それが、スポーツを通じた健康づくりはもとより、多様な社交や相互敬意、教養を生む。スポーツは豊かな社会を築く大きな一因となりうるのである。

言わずもがな、朝鮮学校でも部活動が主流だ。現場の指導者、子どもたちに関わる保護者や地域同胞社会の一人ひとりがスポーツや部活動の役割は何かをしっかりと考えることが、子どもたちのよりよい成長につながる。そのための具体的なヒントを、本書は与えてくれる。

(根)

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