〈明日につなげる―無償化裁判がもたらしたもの―〉愛知弁護団(下)


「内なる差別性」の気づき、伝える教訓

一審につづき二審でも原告敗訴の不当判決が下る。(名古屋高裁、2019年10月3日)

「(日本における)女性弁護士の割合は全体の19%(2020年日弁連調べ)。5人に一人程度と少ないですが、この弁護団では約半数が女性で、かつ全員がエース級の活躍をしてくれました」。愛知弁護団の裵明玉事務局長はそう語りながら、同弁護団のもう一つに特徴に、女性の活躍をあげた。実際、愛知では朝鮮高校に対する不指定処分の理由が「省令ハ」の削除だという原告の主張を裁判所に認めさせるなど、約半数を占める女性弁護士たちが八面六臂の活躍をみせた。他方で、かのじょたちが「内なる差別性」に向き合う過程で抱いたさまざまな気づきは、裁判が終結したいま、いっそう重要な教訓を伝えている。

刷り込まれた偏見

矢崎暁子弁護士

2012年1月に愛知弁護団に加入した矢崎暁子弁護士は、司法修習生時代の指導担当の影響から高校無償化制度と朝鮮学校を取り巻く問題を知ることになった。約2ヵ月、実務経験を積む法律事務所での修習期間、かのじょの指導担当となったのが東京弁護団の一員だった松原拓郎弁護士。当時は高校無償化法が成立し、各地で朝鮮高校への適用を求める運動が起こっていた時期だったこともあり、「東京での関連集会に松原先生が弁護団として登壇するので見に行ったりもした」という。一方でこの頃、朝鮮大学校法律学科の講師として、同学科から法科大学院への進学を目指す学生たちを対象にゼミを持っていた松原弁護士から「朝大で授業があるから一緒に行くか」と話を持ち掛けられたという。

「最初に話があったとき『ドキッとした』んです。朝鮮大学校って何、と。けど同時に、自分がそう感じたのはなぜだろうと考えると、私自身、朝鮮というものに偏見を持っていると分かって。それがすごくショックで、だったらなおのこと行かなくてはと思った」(矢崎弁護士)

矢崎弁護士は、後日、松原弁護士について初めて朝大キャンパスを訪ねることに。それから朝大生たちと接する過程で、自身が心の奥底に閉まっていたとある記憶を思い出すことになる。

朝大生たちの小論文の指導を手伝っていたときのこと、なぜ弁護士を目指すのか志望動機を問う矢崎弁護士に対し、かれらは「在日同胞社会を守るため」だと答えたという。

「その時なんとなく、かれらの言うそれがマイノリティの自分たちを守るコミュニティなんだと感じて、私は今まで何も知らずに生きてきたなと思った。ところが、ちょっと待てよとなって…」(矢崎弁護士)

二審判決後の報告集会で登壇する保護者たち

それは同氏の学生時代に遡る。ある日のホームルームの時間、同級生が「皆に嘘をついていたことがあります、実は私は日本人じゃないんです」とカミングアウトし、クラスメートを前に「今まで騙していてごめんなさい。これからも友だちでいてください」と泣きながら語ったのだった。

「私、知らなかったわけじゃないじゃん」―。朝大生の話を聞き、「大事なことを見過ごしてしまった」当時の光景が思い浮かんだという矢崎弁護士。同氏はそれ以降、自身が「マジョリティとして差別に加担してきたことに決着をつけたい」という思いから、弁護士となった際には「必ず弁護団に入ろうと心に決めた」。その後、縁もあってか弁護士になってすぐの就職先が、裵弁護士が所属する法律事務所だったことから、愛知弁護団に加入。弁護団では主に、朝鮮学校への差別を正当化する前提として「北朝鮮嫌悪」のバイアスが存在することを指摘したうえで、それと一線を画した裁判であるべきだという主張を展開した。

矢崎弁護士は当時を振り返り「報道や国会での発言など朝鮮への嫌悪感情が大っぴらに表れた例を取り上げ、それに対しマジョリティはなんの問題意識を持たずに見過ごしている、その価値観が蔓延した社会で人々の物の見方が歪められていることを念頭において、という趣旨の書面を書いた」と述べながら「私のなかに当初あった偏見がこうしてつくられてきたと改めて気づき、その根深さを感じた」と語った。

同じじゃない、違うからこそ

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