〈明日につなげる―無償化裁判がもたらしたもの―〉愛知弁護団(中)


在日朝鮮人の歴史、学び構築した相互理解

1審・第25回口頭弁論後に名古屋初級で行われた報告集会(2017年9月13日)

朝鮮高校への高校無償化適用を巡る訴訟に伴い、2011年4月に発足された愛知弁護団。名を連ねる弁護士たちが口をそろえ自負する同弁護団の特徴の一つに、原告との距離が極めて近いことがある。これはメンバー一人ひとりが高校無償化問題にとどまらず、在日朝鮮人の歴史を学び、時に葛藤しながらも、原告たちに向き合い積み重ねた相互理解と尊重が下支えしている。

民族的誇りとは

弁護団結成後、訴状を準備する過程で弁護士たちがまず確認したのは、この裁判の方向性についてだった。最終的に原告が10人と決まって以降、弁護団では原告1人に対し1人ずつ担当弁護士がつき、面談や食事会、合宿などを通じて密な関係を築いてきた。そのようななかで、弁護団メンバーたちは、無償化制度からの除外を目の当たりにした生徒たちの「朝鮮人としてのアイデンティティや誇りを傷つけられた」という思いを度々耳にした。それを受けて、最初のイニシアティブをとったのがベテランの中谷雄二弁護士だった。

1審・第25回口頭弁論後に名古屋初級で行われた報告集会(2017年9月13日)

「中谷先生は当初、裁判の役割は闘うための理念を確立することだと、原告が理不尽だと思うことに対して理念を確立し、運動のたいまつを掲げなければいけないとおっしゃった。そして『朝鮮人としての生き方を侵害された』という生徒らの思いを裁判の中心に据えるべきだと。今思えばこの呼びかけに対して弁護団の皆がすごく意欲的だった」(裵明玉弁護士)

それから書き始めた訴状は、主張の根幹に①朝鮮学校で人格を形成してきた原告たちという人間自身の否定(人格権侵害)と②植民地の克服という問題を据えたものとなる。

しかしいざ準備をはじめると、一つの障壁が立ちはだかったという。約30人で構成された弁護団メンバーのうち、実働人数は12人ほど。その多くは30代前後の若手弁護士たちで、原告たちのいう「朝鮮人としてのアイデンティティや民族的誇りを持って生きたい」という思いが「いまいちピンとこな」かった。

それは戦争体験や過去に三菱女子勤労挺身隊訴訟を担当するなどして、歴史的な視点および感覚があるベテラン弁護士らとは対照的なもので、大半を占める若手弁護士たちは、当初生徒らがいう「民族的誇り」などを自身に置き換えたとき、いわゆる「愛国ナショナリズムみたいなもの」を想定した。そのため、生徒たちの発言に対し「そんなに個人が民族に左右されるのか」「それが押しつけにならないか」「在日朝鮮人として生まれたら朝鮮民族として絶対生きなきゃいけないというメッセージを弁護団が発することは抑圧にならないか」など、という思いを抱いたのだった。

「マジョリティである日本人が『日本民族万歳』と言うのとはまったく違う。日本におけるマイノリティで、なかでも政治的に非常に偏見を持たれやすいマイノリティである在日朝鮮人が民族に誇りを持つと言ったとき、生まれながらの自分を肯定し、朝鮮民族の運命にも主体的に向かい合う意味合いがあるということを話した。前者と違うということを理屈ではわかっていても、(若手弁護士たちは)その違いを考えてきたことがなかったので、理解するのはすごく大変だったと思う」(裵明玉弁護士)

生まれながらに朝鮮人

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