〈明日につなげる―無償化裁判がもたらしたもの―〉九州弁護団(下)


“転換の契機に”

2020年10月30日、控訴審判決を前に入廷行進する九州弁護団と関係者たち

2013年の提訴から8年。依然、司法闘争が続く九州では、同様に最高裁へ上告中の広島とともに、裁判支援を行う2地域の市民団体が中心となり、最高裁へ公正な判断を求める署名活動を展開している。判断を待つしかない現況で、弁護団のメンバーたちもまたそこに力を結集させている。他方で弁護団では、異国の地で在日朝鮮人自らが育んできた民族教育という学びの場を、今後長いスパンでいかに確立していくのかについて、学校関係者たちと共に考え、行動を模索する日々だ。

“時間はかからなかった”

弁護団立ち上げ当初から携わる安元隆治弁護士は、金敏寛弁護士(九州弁護団事務局長)と弁護士登録した年が一緒のいわゆる同期の間柄。金弁護士の誘いに二つ返事で参加を決めた九州弁護団の活動について「これまでの弁護士人生のなかで最も大きく、最も長く担当した事件」だと述べた。実は同氏、亡くなった服部弘昭弁護士の直属の弟子で、2週間に1回程行われる弁護団会議の場所も、そのほとんどが、二人が所属する法律事務所でおこなわれてきた。

「事務所の創設者・谷川宮太郎さんが、朝鮮学校を支える会に携わっていて、服部先生は若い頃、谷川先生から『朝鮮学校の活動は君が引き継ぐように』と言われ活動するようになったと、ご本人から聞いている。とにかく忙しい方で、相当関わっていることを普段は知りえなかった」(安元弁護士)

安元隆治弁護士

生前、多忙なこともあってか、または本人のスタイルがそうだったからか、朝鮮学校を支える活動については多くを語らなかったという服部弁護士。安元弁護士は、そんな師匠の「知りえなかった」姿を、弁護団活動を共にすることで知り、活動の大切さもまた実感していった。

とりわけ、控訴審の最終局面となった第3回口頭弁論(20年2月14日)の場。1審以降、2回目となる意見陳述に立ち「来るべき共生社会に向けた当たり前の判決を、福岡から求めます」と裁判官に対し訴えた安元弁護士の姿は、傍聴した生徒や同胞たちが自然に拍手を送るほど、この問題に弁護士として、また一人の人間として向き合ってきた同氏の強い思いを印象付けるものだった。

当時、朝鮮学校に携わった日々を「大変ながらも楽しい時間だった」とした真意について、安元弁護士は「在日朝鮮人や日本人と新たに知り合い、仲良くなっていく。これは、この事件を担当したからこその醍醐味でした」と話した。

そして彼のこの思いをなおさら強くしたのは、見慣れた光景のなかに居た在日朝鮮人という存在を、金弁護士はじめ、弁護団活動を通じた出会いが可視化させてくれたからだ。

「高校は愛媛の学校を通ったが、そこのすぐ隣が四国初中だった。当時寮に入っていて、たまにその敷地から聞きなれない音楽が聞こえてくることがあって。あそこは何だろうと、思いながらも知らないまま卒業した。朝鮮学校を知ったのは九州弁護団を通じてだが、振り返ると意外と身近に、自分の生活圏の近くに朝鮮学校があったことに気づいた」(安元弁護士)

安元弁護士にとって弁護団活動は、学生時代は意識しなかった光景さえも、その細部をより鮮明に映すものだった。そればかりか、弁護団活動を開始して以降、九州中高に度々足を運び、生徒たちが授業をうける様子をみたり、学校関係者たちと話を交わすことで知り得た「朝鮮民族としてのアイデンティティを持って生きる」在日同胞の生きざまは、彼にとって自分とは異なる境遇や背景を持つ人々への想像をめぐらせ、理解する「新鮮な経験だった」。

「正直、最初は教育内容の部分で違和感があった。けれど僕が見たのはあくまで一面的なものだから、この感覚は当たり前だとも思った。同時に、ある意味日本人にとってそこに深入りするのはタブーになっているのかなとも。けれど僕にとっては金君がいて、この事件に関わることになった以上、そこはタブーではなく、むしろちゃんと知らなくてはいけない。でも内容を知れば、なるほどね、となる。なぜ肖像画を掲げるのか、それはこれまで朝鮮が、朝鮮学校を経済的な面で支えたから感謝の意味が込められていると。この流れが理解できたし、理解するのに時間はかからなかった」(安元弁護士)

同期、師匠そして裁判という契機があり、朝鮮学校を知った安元弁護士。同氏は今年4月、服部弁護士に次ぐ「朝鮮学校を支える会・北九州」の新会長に就任した。

今もなお負けていない

どのような事件でも、裁判となった場合には原告と被告に対し、勝ち・負けどちらかの結果が言い渡される。もちろんそこにグレーは存在しない。

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