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新型コロナウイルスと2020―2021(上)/経済学から考える今後の展望と対応(11)

2021年02月06日 08:30 主要ニュース

緊急事態宣言とGDP成長率/康明逸(朝鮮大学校経営学部准教授・経済学博士)

猛威は収まらず

今年に入っても新型コロナウイルス流行の猛威は収まらず、1月28日15時時点で、世界全体の感染者は累計1億人超(100,866,032人)、死者は200万人を超えています(2,174,129人)。日本での新規感染者数は同時点で4133人、累計380,427人にも上り、新たな死者数は113人、累計で5,501人になりました。

昨年4月、日本の1日当たり新規感染者数は500人を超えましたが、全国的な緊急事態宣言という歴史的にも異例な措置と引き換えにして、その数を50人以下にまで抑え込むことに成功しました。日本社会全体がコロナウイルスと安全に共生できる状況に至ったのではないか―そんな「安堵感」も広がっていたのではないでしょうか。しかしながら、7月を超えると再び感染者数は急増し(「第二波」)、冬を迎えた11月以降、一日の新規感染者数は1,000人を超えるまでに至ってしまいます(「第三波」)。

コロナ拡大の主犯と批判を浴びながらも強行してきた肝煎り経済対策「GoToキャンペーン」停止を断行した日本政府ではありましたが、感染者数の増大に歯止めが掛けることはできず、ついに1日当たりの新規感染者数が5,000人の大台を突破したことを受けて、今年の1月8日と14日、11都府県に対して二回目の「緊急事態宣言」を発令しました。

表1はこれまで発令された「宣言」の該当期間と対象地域を整理したものです。今回の発令時のコロナ新規感染者数のオーダーが10倍以上になっていることに、状況の深刻さが伺えます。

政策効果はいまだ不明

表2では、「宣言」によるコロナ感染抑制効果を見るために、①発令直後、②2週間後、③解除直前のそれぞれ1週間の1日当たり平均新規感染者数を整理したものです。昨年4月の「宣言」発令直後1週間の平均新規罹患者数は521人でしたが、2週間を超えた14日目から21日目には平均355人に減少し、31.9%分の新規コロナ感染を抑制する効果が見られました。また、宣言解除直前1週間では平均31人と激減し、結果として94.1%の新規感染を封じ込めることになりました。

今回の「宣言」の場合、発令直後の1週間平均が6,234人、14日目からの1週間平均が4,067人となり、前回よりも若干多い34.8%の感染抑制を示しています。

しかしながら、前回同様に今回も90%以上の最終的な感染抑制を期待できるのかどうかについては、予断を許しません。

第一に、宣言による自粛規模が昨年よりも大幅に縮小され、飲食業に限定されている点があげられます。経済的便益との兼ね合いの中で、これまでの「教訓」を活かして効率重視の重点的な政策効果を意図してのことだそうですが、「飲食業の狙い撃ち」ともとられかねない限定的自粛要請の実効性について、不安感は否めません。

第二に、前回とは異なり、マスク着用やうがい・手洗いの励行、社会的距離の確保など、人々の行動変容が一定程度浸透した上での宣言発令だということです。昨年コロナ流行の抑制に成功したのは、緊急事態宣言そのものによる行動抑制に起因するのではなく、それが持つ「情報効果」によるものだという研究者の指摘も出ています。このような点を考慮すると、コロナの危険性や防疫行動様式がある程度浸透している現況下では、情報効果によるコロナ抑制の余地は少なくなっていると考えるべきでしょう。

プラス成長でも経済規模縮小

昨年の予想だにしなかったコロナウイルスの世界的流行は、プラス3%を超えると期待されていた世界経済の実質GDP成長率を、マイナス3%台にまで押し下げました。特に、陸続きで国家間におけるヒト・モノの往来が激しい欧州大陸側での経済規模縮小が顕著で、ユーロ圏全体で7.2%ものマイナス成長を記録しています。

一方、ほとんどの国が経済停滞に苦しむ中、他国に先駆けてコロナ流行に直面した中国は、2.3%のプラス成長を達成しています。中央政治と産業および科学技術の力に依拠した攻勢的なコロナ対策が功を奏し、流行の封じ込めと経済成長の両立に成功した数少ない国となりました。この事実はまた、世界秩序のパラダイムシフトを如実に表しているようにも見えます。

日本では、他の国々の例にもれず、昨年マイナス5%を超える実質GDP減少を被ったと推計されます。一方、今後の経済成長予測値を見ますと、今年が3.1%、来年が2.4%と、2年連続のプラス成長が予想されています。ただし、これは今回の緊急事態宣言発令以前に計算されたものであり、宣言による経済減速効果が反映されていない値です。また、シナリオの前提には、ワクチンの普及による罹患率の低下も織り込まれているのですが、新種や変種へのワクチンの制御効果はいまだ未知数です。さらには、たとえこのシナリオが実現したとしても、それはあくまで昨年生じた経済規模減少の上での経済成長であり、トータルで見ますと2022年が終わったころにやっと2020年初頭(コロナ流行前)の経済規模に戻るということに過ぎません。

長引くコロナ流行と経済停滞は、同胞生活と経済活動にさらなる試練を課し続けています。

次回では、この間に蓄積されたコロナ流行に関するいくつかの最新経済研究に依拠しながら、同胞経済の見通しについて解説します。

※本稿に掲載した感染者数データは「NHK新型コロナウイルス特設サイト」より抜粋しました。

「緊急事態宣言」

▼ 2020年4月7日に東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に緊急事態宣言を行い、16日に対象を全国に拡大。5月14日に北海道・東京・埼玉・千葉・神奈川・大阪・京都・兵庫の8つの都道府県を除く39県で、21日には、大阪・京都・兵庫の3府県について、緊急事態宣言を解除した。なお、東京・神奈川・埼玉・千葉・北海道の5都道県では継続。25日には首都圏1都3県と北海道の緊急事態宣言を解除。およそ1か月半ぶりに全国で解除されることになった。

▼「新型コロナ特措法」に基づき、11都府県に対して、二回目の「緊急事態宣言」を発令

1.8~2.7(31日間):埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県

1.14~2.7(25日間):栃木県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県

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