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“意識改革で、より良い同胞社会へ”/ハラスメント事例集出版記念会

2020年12月18日 12:02 主要ニュース 権利

人権協会・性差別撤廃部会で

在日本朝鮮人人権協会の性差別撤廃部会が「内なる壁を突き破る~在日コリアン女性のハラスメント事例集~」出版を記念して13日、記念イベントを東京・池袋の施設で開催した。

都内で行われた出版記念会のようす

今回、性差別撤廃部会が出版したハラスメント事例集は、2014年に行った在日同胞のジェンダー意識に関するアンケートの結果報告書に次ぐ、同部会2冊目の書籍となる。事例集は在日朝鮮人女性のハラスメント被害体験に焦点を絞り、被害の場面や被害者の気持ちを詳細に掲載した点で、前報告書よりも一歩踏み込んだ内容となっている。

部会長の李全美さんは出版の経緯について「在日朝鮮人女性は日本社会で生きるうえで、在日朝鮮人男性とも日本人女性とも異なる形態の差別と暴力を経験させられている。民族や性別などに基づく複合差別の困難な点は、同じ属性の集団では軽視されたり見過ごされてしまうことにある。実際に複合差別に苦しんでいる女性が多い反面、何がハラスメントなのかわからないという人も多い。このような経緯から、わかりやすい事例集という形で出版するべくアンケート調査を実施した」と説明する。

事例集では、日本社会で被った被害事例もあれば、在日同胞社会内部で被ったり、在日朝鮮人男性から被った被害も明らかにされている。李さんは「私自身、(事例集に)こんなことを書いてしまったらコミュニティーにマイナスになるんじゃないかと何度も葛藤しながら作成に関わってきた。しかしアンケートには、被害を受けた集団に今後は参加しないと答えた回答者もいる。私たちの在日同胞社会が特別なコミュニティーだからこそ被害を言えずに黙っているのではなく、特別だからこそ、こうした被害をなくし、一人ひとりを大切にするより良い同胞社会につくるために私たちの意識を変えていかなければいけない。事例集の出版がそのきっかけになれば」と語った。

事例集について説明する部会メンバーら

出版記念会で事例集の内容を紹介した李イスルさん(部会運営委員)は、「ハラスメントを告発したらコミュニティーにいられなくなる、差別主義者に攻撃材料を提供することになるなどの憂慮から被害を告発できないといった回答は、在日朝鮮人であり女性であることによる二重苦を表している」と指摘。被害をなくすための方途として▼民族団体内でのハラスメント防止教育、▼ハラスメント問題に詳しい専門家の育成、▼ハラスメント相談所の開設–などを挙げたうえで、「在日朝鮮人は日本で暮らしながら民族差別を恐れながら精一杯の抵抗や反論をしている。差別的な話題が過ぎ去ることを祈ったり差別に加担する発言をしてしまうこともあるかもしれない。在日朝鮮人女性が同胞社会の中でハラスメントを受けた時、これと同じ妥協をしているということを知ってほしい。まずは何がハラスメントなのかを理解し、ハラスメントの告発を支持することでも遠い道のりが開けてくるはず。うまく言えなかったり勇気が出ない人は、ぜひ事例集を活用してほしい」と言い添えた。

性差別撤廃部会が作成した性に基づくピラミッド(部会提供)

事例集へのまなざし/参加者の発言から

金静寅さん

続いて記念会では、事例集に触れた感想について3人が発表を行った。

在日朝鮮人女性の相談を受けてきた視点から発言した金静寅さん(NPO法人同胞法律・生活センター副所長)は、「安心して自分の被害を話す過程が被害回復につながる」としたうえで、「事例集は、被害当事者を大いに慰めるだけでなく、同様の経験をした女性を励まし、力づけるもの。同胞女性たちが、安心して痛みを話し合える場が、若い世代によってつくられつつあることに力を得た。2018年にノーベル平和賞を受賞したコンゴの産婦人科医は、回復とは被害を受ける前の状態に戻ることでも被害を忘れることでもなく、新しい力を得て自分のコミュニティーに戻ることだと説いた。若い世代がこの場に来て、力を得て、自分の持ち場に帰る。そういう力を育む場に性差別撤廃部会がなっていくことを強く期待している」と温かいエールを送った。

金成樹さん

次に在日朝鮮人男性の視点から発言した金成樹さん(朝鮮学校教員)は、「事例集は在日朝鮮人社会に内在する女性に対するハラスメントの実態を初めて可視化したという点で非常に画期的」と話した。また、教育の現場が偏ったジェンダー規範・ジェンダー役割の温床・再生産基地となっている問題や、男性に対するハラスメントの実態調査の必要性に言及。さらに日本軍性奴隷制問題に触れ「恐怖を乗り越えて勇気を出し被害を告発するという課題が、女性をはじめ被害者側にばかり課せられることは不当だ。社会的に、組織的に解決していくべき」と訴えた。

最後に、京都からリモートで参加した金友子さん(立命館大学国際関係学部教員)は複合差別研究の視点からコメントした。金さんはコミュニティー内部で複合差別を問題化する難しさについて「日本社会の民族差別が在日朝鮮人社会における家父長制を強化しているとして、これを容認してしまう側面や、差別に対し声をあげることで日本社会の朝鮮・韓国に対するステレオタイプを強化してしまう側面がある」と指摘。「一つひとつを解きほぐし、さまざまな差別の概念を積極的に活用して、在日朝鮮人女性の差別状況を言語化していけたら」と語った。

リモートで参加した金友子さん

会場からは「多くの男性が女性差別を認めたくない、向き合いたくないという感情があると思う。女性たちの差別状況をどう受け止め、変えるために何ができるか考える場になった」(20代同胞男性)、「自分自身、部会の存在がなかったら、同胞コミュニティーから離れていた。でも今は諦めずにいかに社会を変革していくか想像をめぐらせている」(20代同胞女性)などの感想が寄せられた。また、アンケートに回答した20代同胞女性は「事例集はハラスメントの何が問題で、いかに被害者の人権を貶めているか、また、どう声をあげればいいのかが詳しく書かれており勇気が湧く。声を上げることができてうれしかった」と話した。

「内なる壁を突き破る~在日コリアン女性のハラスメント事例集~」

在日朝鮮人女性をとりまく「民族×性」の複合差別に基づく生きづらさについて、ハラスメントに焦点を当てて行ったアンケート調査の結果をまとめた事例集。23の事例と、セクハラ、パワハラ、レイハラ、SOGIハラなどさまざまな形のハラスメントについての解説や、その基準となる国際労働機関(ILO)の「暴力とハラスメント条約」全文、同部会が独自に作成した「性に基づくヘイトのピラミッド」なども掲載。在日朝鮮人女性たちの複雑に絡み合う被差別の実態を明らかにするとともに、その被害経験がなぜハラスメントとなるのかを論理的に解明し、抵抗のための実践的な方途を示した実用的な一冊。頒価800円(税込/別途送料200円/A5版/81頁)。注文は(https://dareiki.base.shop/items/36932668)から。

(金淑美)

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