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〈本の紹介〉戦争とカニバリズム/佐々木辰夫著

「大東亜共栄圏」思想と日本軍人肉食事件

スペース伽耶、1500円+税、TEL03-5802-3805

第二次世界大戦時の日本軍の残虐な戦争犯罪は、日本の敗戦後も起こった。本書ではフィリピン・ミンダナオ島における日本軍の人肉食(カニバリズム)事件の全貌について記されている。

44年10月~12月にかけて繰り広げられたフィリピン・レイテ島での米・日軍による戦闘時から近隣のミンダナオ島に拠点を置いていたある日本軍部隊は、45年8月の敗戦を迎えてもなおその地にとどまり続け、解放を目指す現地のゲリラ部隊と銃を交えながら住民たちを殺戮し、80人以上の人々を「食材」として残酷に食した。

本書ではミンダナオ島における日本軍の人肉食事件の経緯や、その後、事件当時者たちが裁かれた二つの裁判について詳細に述べられているほか、当時の日本軍による残虐な行為を明らかにする目撃者の証言が掲載されている。

「今でもあの時のことを思い出すと震えが来てしばらく止まらない。日本人がまた来て人を食うのではないかと今も本気で恐れている。(中略)人間は動物ではない」(本書より)

人肉食事件をめぐっては、戦時など人間が極限に置かれた状況で起こる問題として、これまで倫理的観点からさまざまな議論がなされてきた。一方、筆者はとりわけ日本軍の人肉食事件について「日本型植民地主義」ともいえる「大東亜共栄圏」思想との深い結び付きについて強調する。

「日本以外の国は野蛮国であり、野蛮人であるという認識が根底にあった。…互いに人を人として遇していたならば、日常茶飯事として住民を殺害して食材にするなどありえなかっただろう」―筆者はそう述べながら、欧米諸国に対抗するため、アジアの他国や他民族の尊厳を踏みにじり、朝鮮をはじめとした国を次々に侵略した、歪んだアジア主義を糾弾する。

「アジア・太平洋戦争のその広大・茫漠たる空間のほんの一点にすぎない島における一連の事件は、日本において戦争犯罪の点からも、また戦争責任およびそれを究明・批判する戦後責任の観点からも、筆者にとってはとうてい避けて通れない課題に見えて仕方ないのである」(本書より)

日本軍の数々の戦争犯罪の中で、これまで深く語られることが少なかった人肉食事件を通じて、戦争の凄惨さや旧日本軍の残虐性、いまだに清算されない日本の戦後責任について深く切り込む一冊。

(根)