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〈それぞれの四季〉テクノロジーで終わらない/李勇燦

「テクノロジーで終わってはいけませんよ。それを使い、物理、化学を解き明かすサイエンスをやりなさい」。博士論文の審査の先生に言われた言葉だ。最近、これを強く実感している。

私の専門は構造生物学と呼ばれる。生体分子(抗体やDNAなど)の形を可視化することで、その仕組みを理解する学問だ。対象は1ミリの100万分の1の世界。目では直接見えないため、特殊な実験を通じて観察する。

ドイツに来たのは、そういった分子を見る新しい技術を学ぶためだ。従来は分子を結晶化させる必要があったが、新技術では凍らせた分子を直接見ることができる。クライオ電子顕微鏡法と呼ばれ、2017年のノーベル化学賞に選ばれた。

この技術は研究のスピードを一変させた。5~10年かかっていたプロジェクトが、3ヵ月で片付く。私もドイツへ来てから、いくつかの研究が上手く進んでいる。ただし、速くなったのは自分だけではない。世界中が同じスピードで研究を進めている。今年4月、私たちが得ていたものと同じ研究結果を他のグループに先に報告されてしまった。

幸い、論文を読んでみると彼らは大事なことを見落としていた。その部分は私たちが数カ月前に気づき、追加実験を組んでいた。「テクノロジーで終わらず、しっかり考えなさい」。テクノロジーが速度を変えた今、頭で考える時間がもっと重要になると改めて思った。

(ドイツ在住、博士研究員)