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〈新型コロナウイルス〉経済学から考える今後の展望と対応(9)/康明逸

2020年05月27日 14:04 主要ニュース

緊急事態宣言の解除と同胞医療従事者の貢献

除外されていた関東4都県と北海道でも緊急事態宣言の解除が決定しました。遅れて宣言解除が発令された地域でも、全体的には新規感染者数が減少してます。

このような感染者の減少は、あくまで人為的な活動・行動の自粛や、手洗いやうがいの徹底というような行動変容がもたらしたものであって、抗ウイルス特効薬やワクチンの開発や商品化など、ウイルスを撲滅する決定的手段を手に入れたわけではありません。これから企業や人々の活動が再開し、人々の接触頻度が再び増えるのであるならば、それは当然ウイルスの再伝播をもたらすことになるでしょう。これから当分の間(ワクチンが開発されるまでのおそらく1~2年のスパンで)は、活動再開による人々の接触増加と感染者の再拡大に応じた自粛・行動抑制の再要請と、感染者の減少局面における弛緩とを交互に繰り返しながら、医療崩壊を避けつつウイルスと共存していくことになりそうです。

医療・介護職への関心の喚起を

新型ウイルス流行語、「3密」となる環境と「不要不急」な外出・接触を避けることがウイルス拡散を防ぐうえで不可欠であるとしきりに喧伝されてきました。しかしながら、自身の職務の中断がそのまま社会の停滞や、人々の健康や生命維持活動を棄損させてしまう仕事(言い換えるなら人々の生活の資〈QOL〉を著しく引き下げることに繋がる仕事)では、感染リスクを抱えながらも出勤し続け、業務を稼働させなければならない業種もあります。その典型が医療および福祉分野です。

新型ウィルス流行後、医療・福祉分野で働く人々は、感染の最前線もしくは感染リスクが他業種よりも遥かに高い環境下で働いてきました。当事者やその家族の不安や負担は想像しても余りあります。

統計数値で見ると、2015年の国勢調査から見て取れる医療・福祉業で働く在日同胞の数は14,000人近くもおり(図表1参照)、同胞就業者全体(173,534人)の8.0%を占めています。驚くべきといいますか、医療福祉分野で働く同胞就業者は、在日コリアンが多いと思われている諸産業、例えば「生活関連サービス・娯楽業」(5.0%)、「不動産業」(3.4%)、「金融業」(1.9%)、「運輸・郵便業」(5.5%)などよりも、はるかに大きなウェイトを占めているのです。

図表1.医療・福祉業に従事する在日同胞

全体 男性 女性
就業者総数 13,920 4,020 9,900
雇用者 11,905 2,752 9,153
うち正規 6,815 2,114 4,701
うち非正規 5,090 638 4,452
商工人 1,642 1,204 438
うち役員 636 373 263
うち自営業者 1,006 831 175
その他 373 64 309

※ここで「在日同胞」とは、2015年国勢調査で「朝鮮・韓国籍」に分類された者。

※「その他」は「家族従業者」と従業上の地位「不詳」を合わせた数。

また、そのうちの多くが女性であり(9,900人、71.1%)、商工人の比率も11.8%と他産業に比べて多くなく、多くが雇用者となっています(全同胞就業者に占める商工人比率は23.7%)。日本社会全体として、新型ウイルス下で働く医療や福祉現場の人々を題材とした報道が多くなされていますが、同胞コミュニティーとしても、いまこそ同胞医療福祉分野の従事者やそれを支える家族たちの生活にスポットをあて、継続的な関心と支援を喚起する必要があると思います。

露呈した失業率の上昇

種々の経済統計の中でも、景気変動を後追いしながらラグ(遅れ)を伴って変化する「景気の遅行指標」とも言われる失業率にも、コロナによる経済失速の影響が表れてきました。

総務省が毎月発表している「労働力調査」によれば、今年3月の失業率は2.6%となり、コロナ流行以前の2.1%(昨年12月)に比べて、0.5%ポイントも上昇する結果となりました。就業者の減少の大きい産業は、製造業で前年同月比マイナス24万人(2.2%減)、宿泊・飲食サービス業で同マイナス14万人(3.4%減)と、コロナショックの大きい業種で顕著となり、特に、契約社員やパート・派遣のような非正規雇用が大きく減少しています。また、自営業主・家族従業者数は650万人となり、前年同月に比べて40万人も減少しました。日本全国における自営業主・家族従業者に占める在日同胞のシェア0.43%(15年国勢調査)を掛け合わせると、同胞自営業者・家族従業者数の減少は1700人程度と計算されます。新型コロナによる経済ショックの影響はこれからさらに波及していきますが、ついに労働市場統計を通しても、経済の後退が確認され始めたのです。

事業者に限定されない支援制度構築のを

これまで同胞経済への支援は、コロナの影響がいち早く出てくる同胞経営者・事業者を主な対象として行われ、それは同胞生活と経済への重要な下支えとなってきました。それらに従事する同胞経済機関の専従・非専従活動家のこの間の同胞経済への貢献は、私たちが実感するよりもはるかに大きいでしょう。今後、緊急事態宣言が解除されていき、日常生活が取り戻されていくとともに、マクロ経済の停滞がじわじわと同胞の雇用や生活を脅かしていきます。経済対策というと、自営業者や経営者など同胞起業家への支援だけに目を奪われがちですが、より広範な雇用者たちの雇用と生活を守っていくための互助システムを同時に作り上げていく時期に差し掛かっています。

(朝鮮大学校経営学部准教授)

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