〈新型コロナウイルス〉経済学から考える今後の展望と対応(6)/康明逸
2020年04月23日 09:50 主要ニュース日本政府の経済対策(1)
現在のウイルス流行のように、市場や民間経済主体にとって予想外の要因による経済停滞の責任を、個人や企業だけに背負わせて市場活力に頼った経済回復を実現しようとするのは、明らかに不合理であり非現実的です。また、政府や地方自治体などの公的な意志決定によりなされた活動規制・自粛による経済的打撃については、当然、公的な政策によってケアされるべきものです。今回からは、日本政府や地方行政によって打ち出されている様々な緊急経済対策について整理してみます。
「最大級の経済対策」とは
昨年10月に強行された消費増税の影響から、日本経済の景況は今年に入っても減速傾向にありました。1月に露見した新型コロナの流行は、消費増税に加えたダブルパンチとして日本経済に襲い掛かっています。遅れがちであった政府および地方行政の対応は、オリンピック・パラリンピックの延期決定(3月24日)以後に加速化し、現在、様々な医療および経済対策が講じられようとしています。
一方、生活者側からは、対応速度の遅さ、手続きの煩雑さ、適用条件の厳しさ、規模の小ささなど、政策に対する不安や不満が募っています。例えば、感染拡大によって悪化した企業業績や国・地方自治体の自粛および休業要請に応じて生じた休業手当に対して助成される「雇用調整助成金」については、申請214件に対して、実際の支給は2件に留まったと報道されています(毎日新聞4月15日Web版)。この緊急時、事業活動に注ぐべき貴重な時間を割いてまで煩雑な書類を揃え申請したにも関わらず、1%未満にしか適用されないのであれば、多忙な事業主たちは初めから申請を諦めてしまうでしょうし、その分、政策効果も弱まらざるを得ません。4月7日の「緊急事態宣言」の発令とともに、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(以下「対策」)が打ち出されましたが、その恩恵が、必要とされる人々や企業に迅速に行き渡ることを願うばかりです。
そもそもこの「対策」、発表記者会見で安倍首相が「GDPの2割に当たる事業規模108兆円、世界的にも最大級の経済対策」と語りましたが、それはあくまで最終的に関わってくる「事業規模」総額であって、いわゆる「真水」と言われる政府の支出額ではありません。また、コロナとは関係なく昨年末に計上された「総合経済対策」[1]の金額をも含んだものであり、コロナ対策として追加的に計上した支出予算金額は30兆円に満たない上、「緊急経済対策関係経費」として公債発行によって追加計上される金額は、16兆円を少し超える程度です。
総合経済対策
(19年12月5日) |
「緊急対応策」
第1弾・第2弾 (20年2月13日・3月10日) |
「対策」による
新たな追加分 (20年4月7日) |
合計 | |
財政支出 | 9.8兆円程度 | 0.5兆円程度 | 29.2兆円程度 | 39.5兆円程度 |
事業規模 | 19.8兆円程度 | 2.1兆円程度 | 86.4兆円程度 | 108.2兆円程度 |
政府の財政基盤の脆弱さ[2]を反映してだと思われますが、財政支出金額が大きくないことによって、対応スピードの遅滞が改善されず、対象範囲が非常に限定されてしまうことが憂慮されます。一部の「困窮家庭」に限定していた現金給付について、公明党の指摘によってようやく「一律10万円の給付」としましたが、官邸と生活者間の景況感覚・危機認識の乖離が如実に存在しており、それが対応の遅れや規模の小ささに表れているように思われます。また、コロナ対策だけでなく、オリンピック・パラリンピックの延期による経済的打撃を補完する必要があることも考えると、甚大なる経済的損失を緩和するためには、さらなる追加的対応と財政出動が必要なことでしょう。
差別ない適用に強い関心を
現在求められているのは、数カ月後や1年後に支給されるようなものではなく、家賃や給与、事業形態の変更、教育費などに伴う直近の支出を賄うための、スピーディーな補助政策を幅広い対象に打ち出すことです。それによって、直近の所得や事業収入減少による経済および生活的打撃を最小限に止めることで、その後の再起を図れるようにもなれます。例えばドイツでは、小規模事業者に対しても、業種を絞らず手続きを簡素化することで、申請後即時に補助金が支給される政策を導入しました。これにより、従業員が5人以下の小規模事業者・個人事業主では、日本円で100万円程度の補助金を得られることに加えて、各州でも独自の支援を行っています。
最近の報道で、ベルリン在住ピアニスト・峯麻衣子さんが、コンサート会場の閉鎖やレッスンの減少に伴う収入減少に対して、インターネット上で補助金を申請し、わずか2日後に3か月分の補助金として約60万円(5000ユーロ)が即座に振り込まれたことが話題になりました(NHK、4月14日など)。峯氏本人のコメントにもありましたが、この簡素さとスピード感、そして何よりも外国人にも分け隔てなく補助を行う姿勢は、現政権にぜひ参考にしていただきたいものです。
限界含みとはいえ、一応政府における経済対策枠組みが提示されるとともに、各地方自治体でも、休業補償や緊急融資、税金・公共料金の猶予などの施策が、続々と提案されています。これらをいかに賢く、そしてもれなく利用しながら、生き残りと再起を図っていくのか、非常に重要な局面だとも言えます。特に、在日同胞に対する差別的適用が生じないように関心を払っていくべきです。上記「10万円の一律給付」についても、自民党内で即座に「日本国民に限るべき」とのあり得ない意見が出たと聞きます。在日同胞にも漏れなく施策が適用されるように、お互いの状況を見守るとともに、差別事例があれば即時に共有・対処し、ネットワークと運動の力で非合理を是正するための準備を整えていく必要があります。
(朝鮮大学校経営学部准教授・経済学博士)
[1]「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」(2019年12月5日、閣議決定)。
[2] 日本は累積財政赤字がGDPの2倍以上もあり、OECD加盟諸国の中でもトップクラスの赤字財政国家です。
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