〈新型コロナウイルス〉経済学から考える今後の展望と対応(5)/康明逸
2020年04月23日 09:30 主要ニュース感染のマクロ経済的影響(2)/株式市場を通した衝撃
株式価格は、経済の現状だけでなく、将来の経済状況に対する人々の見通し(経済学では「期待」とも呼ぶ)を反映して決まってきます。すなわち人々の頭の中で日々刻々と変化する未来予想に敏感に反応しながら変動するバロメーターが株価であるとも言えます。そのため、株価の推移をみることで、現在保有する情報に基づいて、人々が経済の現状と将来をどのように予想しているのかを知ることができます。今回は、新型コロナの流行が株式市場にどのように織り込まれ、それがマクロ経済へいかなる影響を与えうるのかについて考えてみます。
将来予測の大きな下振れ
今年に入って、各国の株価は大きく下落しました。今年の最初の取引日(日本は1月6日、米国は1月2日)と3月末の株価の終値を比較すると、日経平均は18.5%、米国のNYダウ平均は24.1%の大幅な下落率となっています。たった3カ月の間に、平均株価の計算に採用される両国主要企業の企業価値が、平均して日本では15%以上、米国では四分の一近く吹き飛んでしまったのです。これを反映して、今年の日経平均の株価変化率は日次(1日当たり)平均でマイナスの値(-0.26%)となりました。同等のペースが1年間継続すれば、保有株式価値がおよそ半減(-47.1%)してしまう、大きな相場下落に見舞われたのです。
【図表1】1月初~3月末の株価下落率
【日本】日経平均 | 【米国】NYダウ平均 | |
初取引日 | 23,204.86 | 28,868.80 |
3月最終日(3/31) | 18,917.01 | 21,917.16 |
下落率 | -18.5% | -24.1% |
株価変化率がマイナス値になると同時に、株価の変動が大きくなりリスクも高まっています。今年に入って、日々の株価の変動の大きさを表す日次の株価変化率の標準偏差は、日経平均では昨年1年間の2.8倍(0.86%→2.40%)、NYダウ平均では何と4.9倍(0.78%→3.82%)もの値を記録しています(4月10日現在の終値から計算)。新型コロナの流行により、将来経済への期待が大きく下がることで株式リターンが負値になるとともに、不確実性の高まりを反映して株価の変動が非常に大きくなり、株式市場が不安定化したことがわかります。
本来、株価は大災害のような発生頻度の少ないイベントのリスクを適切に評価できないことが知られていますが、今回、ほとんど見積もられてこなかったウイルス流行のリスクが顕在化することで、それが株価形成に反映され始めていると考えられます。
先進国の停滞の世界的波及
新型ウイルスの流行がこのまま収束していく見通しは立たず、いまだ顕在化していないリスクは大きいと考えるのが自然でしょう。それらがもし実体経済をさらに蝕んでいくならば、株価はより一層下落し、
株式運用による資産形成を活発化させてきた日本政府・企業・個人の金融資産価値をさらに大きく目減りさせ、莫大な含み損を発生させることが予想されます。その結果、資産価値の下落を通じた大きな需要減少が生じるとともに、国家財政収支のさらなる逼迫が政府の財政出動の規模とスピ―ドを鈍らせていく可能性があります。[1]
中国や欧米、日本のような先進国経済の新型コロナ流行による経済停滞は、ウイルスの影響の小さい国々や発展途上国との貿易や投資をも減少させ、世界経済全体の停滞へと波及していく可能性が大きいと言えます。前回指摘した需要と供給の同時ショックをともなう実物経済への直接的打撃も鑑みると、コロナショックによる経済停滞の深刻さは、金融面の負の連鎖が発端となったリーマンショックと同等、またはそれ以上のものになると想定して、各方面の準備を固めるべきかも知れません。
次回は、日本政府の緊急経済対策について言及します。
(朝鮮大学校経営学部准教授・経済学博士)
[1] このように、資産価値が大きく下落することで消費支出を減退させてしまうことを「逆資産効果」と呼び、例えば平成バブル崩壊後の需要減少の主要因のひとつとして取沙汰されました。
「〈新型コロナウイルス〉経済学から考える今後の展望と対応」記事一覧
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