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〈新型コロナウイルス〉経済学から考える今後の展望と対応(4)/康明逸

2020年04月10日 16:33 主要ニュース

感染のマクロ経済的影響(1)/供給と需要の同時ショックが世界的に波及

今年1月に顕在化した新型コロナウイルスの流行は、実体経済における「ヒト・モノ・カネ」の流れへとどのように影響し、マクロ経済を停滞させていったのでしょうか。

規制や自粛による停滞

今年の1月中旬、新型コロナウイルスの人への感染と流行が中国政府によって公認され、その危険性が国際的にも認知され始めました。初期感染の中心地とされる武漢市は、中国の先進都市である上海や北京・広州の中間あたりに位置しており、同国の交通の要衝地点でもありました。そのため、そこを経由し移動する大規模な人の流れに乗って、新型ウイルスも広く中国国内や海外へと伝播していったものと推測されています。

1月23日、武漢市は都市封鎖を宣言し、湖北省全域も封鎖されました。中華圏の旧正月にあたる春節(1月25日)直前の封鎖宣言ではあったものの、長期休暇による帰省や国内・海外旅行など、数億人にものぼると言われる超大規模な人口移動によって、さらに広範囲かつ複雑にウイルスが拡散したと考えられます。

新型ウイルスの感染拡大は、一次的には、治療が必要な感染者の爆発的増大による医療機器・スタッフ・病床不足などといった医療ショックとして現れます。このような医療面での圧迫は、感染者以外の患者への医療対応を鈍らすとともに、ウイルス感染者の死者数と死亡率を上昇させるなど、医療厚生水準を著しく低下させてしまいます。このような危機的状況を防止または緩和させるために、都市封鎖や緊急事態宣言の発布、活動の規制や自粛などの措置がとられるのですが、その結果として、経済活動は停滞を余儀なくされます。

世界経済への負の影響

今回の新型コロナによる経済的危機は特に、供給ショックと需要ショックが同時に訪れる形で生じています。第一に、都市の封鎖や活動の規制・自粛による、生産活動の停滞を通じた供給ショックが生じました。例えば、世界的に屈指の自動車産業およびハイテク産業の集積地域である武漢を含む湖北省全体の封鎖が、この分野の部品や最終生産品の生産を著しく滞らせることで、世界的な供給減少へと繋がりました。また、ウイルス拡散を抑制するための外出禁止措置は、在宅勤務を可能とするリモートワーク体制の整っていない部門や、スマート化の滞っている製造部門などにおいて、労働力の投入減少を通じた生産および供給の停滞を引き起こしています。その影響は一国内に留まらず、国際的に密接かつ複雑に絡み合う供給の連鎖(サプライチェーン)の滞留や寸断を通じて、世界各地に伝播していきました。中国国内の供給ショックが、国際的な供給ショックへと拡散していったのです。

SARS流行時にあたる2000年代前半の中国は、衣料など労働集約型の低価格製品で世界経済を席巻していました。一方で現在は、技術・資本集約的な付加価値の高いハイテク産業において、その影響力が顕著です。中国における供給ショックの世界経済への負の影響は、2000年前半のSARS流行の時の比ではありません。

第二に、様々な経路を通じて世界的な需要の減少が生じています。企業および人々の活動や移動の規制は、観光や輸送、関連分野の需要の大きな減少要因となりました。また、「3つの『密』」(密閉・密集・密接)を避ける必要から、飲食業や娯楽産業において、壊滅的な需要の減少が生じています。さらには、工場の稼働停止や財・サービス供給の停滞による労働需要の減少、保障の伴わない休職・自宅待機などが、需要の源泉となる家計所得を圧迫し、社会全体に著しい需要減少を生じさせています。これらの需要減少が生産の縮小をもたらすことで、原材料や半製品に対する企業間の需要も大きく減少させるとともに、貿易の減少を通じて他国における外需の減少として国際的に波及しています。

このように、供給と需要の双方における同時ショックが、新型ウイルスの発祥地・中国のみでなく、欧州・米国・日本などの世界各国でも引き起こされ、それらが国境を越えて相互に連動する形で、世界経済活動全体の急速な収縮を引き起こしています。

過去のウイルス流行の事例で言えば、SARSの流行期は2002年11月から翌年7月初旬までのおよそ8カ月間と、そう長くはない期間でありました。そのため、経済的打撃もそれだけ限定的なものだったと言えます。

かたや、前回紹介した20世紀初頭のインフルエンザ大流行は、一旦流行が収束したかに見えた1918年以降の3年間に合計3回の流行のピークが訪れ、それだけ経済的損失も長期化しました。

今回の新型コロナについては、一回うまく収束させればそのままピークアウトとなるのか、それとも流行の再発が繰り返されるのか、今後の推移を見守る必要があります。都市封鎖の結果、新しい感染者をゼロにした上で、ついに4月8日に念願の封鎖解除に踏み切った武漢市の「歴史的実験」は私達に新しい経験と重要な示唆を与えてくれると思われます。

(朝鮮大学校経営学部准教授)

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