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〈新型コロナウイルス〉経済学から考える今後の展望と対応(3)/康明逸

マクロ経済への大きな影響、過去の事例を踏まえ

感染症の流行は、健康や生命への脅威を高めるだけでなく、マクロ経済に大きな影響を与えます。実際、今年1月に新型コロナの流行が判明して以降、現実経済活動の縮小や将来不安の形成など、様々な経路を通して、世界的な生産縮小と株価下落が生じています。「コロナ恐慌」勃発の恐れすら喧伝される中、私たちは今後どの程度の経済規模の縮小を想定していけばよいのでしょうか。今回は、過去の感染症流行によるマクロ経済への影響がどの程度のものであったかを見てみます。

1918~20年インフルエンザの大流行

新型コロナの流行を背景にしながら、世界的に著名なマクロ経済学者であるロバート・バロー教授(ハーバード大学)らの研究グループは、今年3月、100年前に起こったインフルエンザの大流行がマクロ経済に与えた影響に対する統計的検証結果を公表しています。[1]

ちょうど100年前の1918年から1920年の間、当時「スペインかぜ」とも称されたインフルエンザが、世界的に大流行しました。世界人口の3分の1が感染したともいわれるこのインフルエンザ大流行によって、米国の平均寿命は一時的に10歳以上も短くなったといわれます。

バロー教授らの研究は、当時の人口の89%、GDPでは90%以上を占める主要43か国のデータをもとに、インフルエンザ大流行による世界全体の死亡者数と死亡率、そしてそれらのマクロ経済変数への影響を推計しています。

それによれば、1918~1920年のインフルエンザ大流行による世界全体の死亡者数は3900万人、世界人口の2.0%にものぼる死亡率であったとされます(表1)。

【表1】1918-1920年インフルエンザ大流行による死亡者数・死亡率

全世界 1918年 1919年 1920年 合計
推定死亡者数 2640万人 940万人 310万人 3900万人
推定死亡率 1.38% 0.46% 0.16% 2.0%

[注]Barro et al.(2020)から筆者作成

この被害規模は、現在の世界人口約75億人で換算すればおよそ1億5000万人の死亡者数に匹敵します。いかに当時の人命被害が大きかったがわかります。

しかしながら、この推計を現在の状況にそのまま当てはめて悲嘆することはありません。バロー教授らも論文の中で指摘していますが、当時のデータから、GDPの高い国ほど死亡率が低いということも明らかにされています。これは、GDPが大きく生活水準や医療技術が高い国ほど、人口に占める死亡率も低かったことを意味します。現在われわれは100年前よりもはるかに高いの経済水準を享受しており、医療技術も発展しています。上に挙げた推計結果は、あくまで「最悪のシナリオ」を考える参考値と捉えるべきでしょう。ただし、感染症がそれほど甚大な生命への危害となり得るのだということは心するべきです。特に、貧困や経済格差の底辺で喘ぐ国や地域・社会グループの被る被害が、そうでない人に比べてはるかに大きいことは留意されるべきです。また、グローバル化が進んでいる現代社会では、人口移動が大きくなっており、感染源や感染者、感染クラスターの特定が困難になっているため、楽観は禁物だとも言えます。

マクロ経済への負の影響

当時のインフルエンザ大流行は、世界のマクロ経済指標にも甚大な影響を与えました。表2では、第一次世界大戦とインフルエンザ大流行による死亡率の上昇が、GDPや消費、株価に与えた負の影響の推計値を比較しています。一瞥して分かるように、インフルエンザによる死亡率の上昇は、一次大戦による戦死者の増加に比肩しうる負のショックを世界経済に与ました。

【表2】インフルエンザ大流行と第一次大戦のマクロ経済ショック

インフルエンザ 第一次大戦
実質GDP 6.0%減 8.4%減
個人消費支出 8.1%減 9.9%減
株式価格 26.0%減 19.0%減

[注]Barro et al.(2020)から筆者作成。実質GDPと個人消費支出は一人当たり実質値の減少率、株式価格は実質株価下落率(ともに年率)。

バロー教授とウルスア博士(投資信託会社Dodge & Cox所属)によって2008年に出版された論文でも、1870年以降の近現代史の中で2回の世界大戦と1929年の世界大恐慌に続く4番目に大きな経済ショックとなったのが、100年前のインフルエンザ大流行であったことが指摘されています。[2]

100年前と比べて、医療技術が進歩し、死亡率が低下しているのは楽観材料だと言えます。一方で、グローバル化によって、国境を越えた「ヒト・モノ・カネ・情報」の繋がりと国家間の経済的依存関係は強まっている現代経済では、ある国における経済ショックが他の国にも伝播しやすくなっています。経済的被害を最小限に食い止めるためには、感染防止や死亡率抑制のような疫学的対策とともに、それがマクロ経済に与える甚大なショックを緩和するための大胆な経済政策が、各国で同時に打ち出されるべきでしょう。

次回は、現在のコロナショックが起こしているマクロ経済への影響について整理してみます。


[1]Barro, R., et al., “The coronavirus and the great influenza pandemic: Lessons from the “spanish flu” for the coronavirus’s potential effects on mortality and economic activity, ” No. w26866, National Bureau of Economic Research, 2020.

[2]Barro, R., and F. J. Ursúa, “Macroeconomic Crises since 1870,” Brookings Papers on Economic Activity, 2008.

(朝鮮大学校経営学部准教授)

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