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新型コロナウイルス、感染拡大を防ぐために – 公衆衛生学の視点から/文鐘聲

2020年03月03日 11:18 主要ニュース

正しい知識を得て正しく恐れることが肝要

新型コロナウイルスに関連した感染症が日毎に増加、深刻な事態にある。感染拡大を防ぐために各種行事や集会が延期・中止となったほか、「臨時休校」などの措置が取られている。あさひ病院班に続き、医協大阪支部副会長の文鐘聲さんに対応と予防法について聴いた。

– 新型コロナウイルスに対してわからないことが多い。どう向き合うべきでしょうか?

2020年3月2日現在の情報を基に、広く公衆衛生学の視点から注意しなければならない点をまとめました。

最初にお伝えしたいことは、今回の新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)とそれを引き起こす新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の出現による様々な混乱は、確かに私たちにとって初めての出来事のように思えますが、私たちは2009年の新型インフルエンザの世界的大流行(Pandemic 2009H1N1)という似た事例を経験しています。その前にもありました。そしてこれからも経験することになるでしょう。「わからないこと」に対する恐怖は誰にでもあります。それが命にかかわるかもしれないことならなおさらです。しかし、正しい知識を得て正しく恐れることが肝要であると思います。情報過多の現代、インターネットやSNSには実に様々な情報があふれています。物事の判断には、できるだけ公的なサイトをご参照いただければと思います。専門家ではない方のブログ等には事実も事実でないものも混在している可能性がありますので十分ご注意ください。科学的根拠(エビデンス)をもって、人権に最大限の配慮を行い、差別を決して行わない、そのような姿勢が私たちには今求められています。

– 現時点でどのような局面にあると認識すべきですか?

2020年2月24日、日本においては新型コロナウイルス感染症対策専門家会議によって「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた見解」(厚生労働省ホームページに掲載)が出されました。

ここでは「現在、感染の完全な防御が極めて難しいウイルスと闘っています。このウイルスの特徴上、一人一人の感染を完全に防止することは不可能です。ただし、感染の拡大のスピードを抑制することは可能だと考えられます。そのためには、これから1~2週間が急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際となります」とされています。

さらに重要なのはこの続きの「仮に感染の拡大が急速に進むと、患者数の爆発的な増加、医療従事者への感染リスクの増大、医療提供体制の破綻が起こりかねず、社会・経済活動の混乱なども深刻化する恐れがあります。これからとるべき対策の最大の目標は、感染の拡大のスピードを抑制し、可能な限り重症者の発生と死亡数を減らすことです」という文面です。

公衆衛生の専門家の一人として、重要なメッセージとして受け止めています。現状の認識では日本は3月2日現在、一部地域において患者クラスター(集団)の存在が明らかになっています。次のクラスターを生まないことが必要です。

– 一部の国では、中国に続いて日本も入国禁止の対象国とするなどの措置が取られているようです。感染拡大の現状は?

3月2日現在ではクルーズ船内での感染者を除いても世界的に見ると多い方に属しており、WHOも日本に対し韓国、イラン、イタリアと並んで「深刻な懸念」があると表明しています。

2020年2月28日、WHOは新型コロナウイルスによる肺炎の地域別の危険性評価について、世界全体を「高い」から「非常に高い」へと引き上げました。確かに危険度は高まっていますが、WHOから出された情報及びその時点での感染者数を見て、現在は感染者数をこれから拡大させるか抑え込めるかの分水嶺であることは間違いないと思います。

感染症の世界的大流行のことを示す「パンデミック」にさせない、もしそうなったとしても被害を最小限に抑えよう、という流れになっています。

「巨大なinfodemic」、情報過多による弊害も

– 「温かいお茶を飲めば大丈夫」といった風説が出回っています。デマと真実の判断が難しいです。

私たちは1923年の関東大震災のとき、「風説の流布」によってつらい経験をしています。21世紀の今、決して繰り返してはなりません。

WHOは新型コロナウイルス問題に鑑み、「巨大なinfodemic(インフォデミック)」であるとしています。これは、情報(information)とパンデミック(pandemic:汎流行、感染症の世界的大流行)を掛け合わせた造語で、SNSなどのソーシャル・メディアが全世界的に普及した現代における情報過多による弊害を表しています。

近年では、東日本大震災のときに様々なデマを経験しました。ここで大事なことは、「事実に基づいた情報か」否かを吟味することです。実際に、新型コロナウイルスに関するデマはすでに私のもとにも数件送られてきました。よかれと思って人々に伝えるのは十分に理解できますが、科学的根拠を見極める能力が専門家以外にも試されているのではないでしょうか。

新型コロナウイルスのデマに対処するためには「ファクトチェック・イニシアチブ」による「新型コロナウイルス特設サイト」が非常に役に立ちます。

手洗いをすべきタイミングを知り、十分に

– どのような予防法が効果的でしょうか?

3月2日、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は10~30歳代の人たちに対し、重症化するリスクの高い人に感染を広めてしまう可能性を下げるために、「屋内の風通しの悪い空間で」、「人と人とが至近距離で」、「一定時間以上交わること」を避けるよう強く呼びかけました。同胞たちの中には飲食店を経営されたり、また、働かれている方も多くいらっしゃると思います。閉鎖した空間で、近距離で多くの人と会話するなどの環境では、咳やくしゃみなどがなくても感染を拡大させるリスクがどうしても増すようですので、一定期間は感染拡大防止への協力と警戒が必要です。

それ以外の効果的な予防方法は既報の通りですが、再度強調したいのは手洗い、咳エチケット、換気です。

インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどは飛沫感染と接触感染が主な感染経路と言われています。飛沫感染とは、感染した人が咳やくしゃみをすることで飛んだ飛沫に含まれるウイルスを、別の人の口や鼻から吸い込むことによって起きます。また、接触感染は、たとえばウイルスが付着した手でドアノブや電車・バスのつり革を触って、その後に別の人がそれを触ることなどによって生じます。空気感染の可能性は極めて低いとされているので、たとえ満員電車であっても会話をしておらず、咳をしている人がいなければ感染する可能性は高くないと現状では考えています。

ただし、先程述べたように飛沫感染やつり革などからの接触感染の危険性はあります。私たちはふだん、気づかないうちに手に口を持っていってしまっています。病原菌に汚染された手によって容易に口を通して体内に入ってしまうと思ってください。

それをできるだけ防ぐために、最も大事なのが十分な手洗い(最低でも20秒)です。外出から帰ってきた後や料理・食事の前、トイレの後など、手洗いをすべきタイミングは多くあります。口に何かを運ぶ動作(食事や料理)の前というのがポイントでしょう。

具体的な手洗いの方法は、まず指輪や腕時計をはずし、長袖の方は袖をまくった後、手を濡らしてせっけんまたはハンドソープをつけ泡立て、手のひらだけではなく、手の甲、指と指の間、爪(片方の手のひらで爪を立ててごしごししてください)をよく洗います。このとき見逃しやすいのが、親指です。もう片方の手を用いてぐりぐり回して洗います。これらの動作を繰り返し少なくとも20秒間こすり洗いをした後に流水できれいに洗い流します。洗い残しのないようにしましょう。タオルは家族であっても他の人のものを使いまわさない方がよいです。

これらは、新型コロナウイルスに特化した予防法ではありません。一般的な風邪、インフルエンザ、ノロウイルス等、手を媒介する多くの感染症に有効ですので、この機会にぜひ習慣化してみてください。これは朝鮮学校を含む全ての学校及び幼稚園・保育園等の保健活動としても重要であると思います。

咳エチケットについてですが、咳やくしゃみは他人に決して向けないでください。また素手で覆ってしまうと、病原菌が手に付着して他のところを触ってしまい、伝播する恐れが高くなります。咳のある方は他の方への感染を防ぐためマスクをお願いします。但しマスクの扱い方を間違うとむしろよくありません。突発的な咳やくしゃみでしかも覆うものが何もない場合は、緊急避難として服の袖(二の腕あたり)で口を覆って対応してください。

また、咳症状のない方についての予防目的でのマスク着用は必要ではないとの見解がWHOからも出ています。無症状感染者がウイルスを拡散させる危険性は確かに否めませんが、現状では限りある資源を有効に活用するため咳のある方や花粉症の方など、真に必要な方が手に入らないことがないようにするためにみなさんもご協力をお願いします。

東北医科薬科大学病院の「新型コロナウイルス感染症市民向け感染予防ハンドブック[1.1版]」が参考になります。

– 日本の検査実態が取り沙汰されました。

様々な憶測を呼んでいるPCRという検査方法は、微量の検体(ここでは鼻腔や喉を綿棒でぬぐった液)から病原体のDNAを増幅させて見えるようにするというものです。新型コロナウイルスは一般的なインフルエンザよりもウイルス量が100分の1以下とかなり少ないと考えられており、正確な検査判定が難しいという問題があります。

それ以外にも、PCR検査に限ったことではありませんが、「正確に診断できているか」という問題があります。

今回の問題では、PCR検査では陰性だったのに、本当は新型コロナウイルスに感染していた、というような問題です。検査がどれくらい有効かどうかを判断するものに「感度」「特異度」「陽性反応的中度」という指標があります。これらの指標が高ければ高いほどよいとされています。

「感度」は陽性の人を正しく陽性と判定できる確率のことと考えてよいでしょう。既に公刊されている論文によると新型コロナウイルスのPCR検査の感度は30~50%、または70%という報告があります。これは何を意味するかというと、たとえPCR検査をしたとしても数十%の確率で「新型コロナウイルスに感染しているのに検査では陰性と判定される」人々が存在するということです。

封じ込め期ではなくなった日本の現状では、無症状や軽症の人全てにこの検査を行うのは意義が薄いと考えます。真に必要な、検査すべき患者さんが検査を受けられない現状は早急に解消されるべきですし、中長期的にはPCRを用いない簡便で感度、特異度、陽性反応的中度も高い検査の早期開発と検査体制の充実化が望まれます。

– 朝鮮では中国の隣国ながら感染者がいないといいます。

様々な報道を見る限り、朝鮮政府が行っている防疫対策は目を見張るものがあるというのが率直な感想です。それなりの犠牲があることは百も承知のことでしょうが、ここまで徹底した対策ができる国はなかなかありません。

インターネット等を通じてみられる朝鮮の報道では、新型コロナウイルスの情勢についてかなり正確に伝えています。

朝鮮がとっている方法は有効な方法の一つですので、朝鮮政府やWHO発表の公式な発表に基づき、推移を注意深く見守り続けるべきだと思います。

但し、感染症の問題は一つの国だけの問題にとどまるものではありません。世界的な流行拡大を止めるため(あるいはゆるやかにするため)に、全ての国・地域による正確な情報開示による科学的根拠に基づいた対策が求められるのは言うまでもありません。

子どもたちの不安、支えてあげられるよう

– その他、注目すべきことはなんでしょうか?

子育てをされておられる方も「休校措置」等により、様々な不安をお持ちのことと思います。現状からすると幸い、小児において重症化するという報告はまだありません。感染管理という側面では、乳幼児にとっても流水での手洗いが最も大事なのは言うまでもありませんが、それがなかなか難しいことは私にも小さい子がおり日々実感しています。

私のゼミの大学院生であった角田旬子さんは看護師の立場から小児期の手洗いについて次ように指摘しています。

ある程度の年齢になったら「いかに楽しく泡で洗うか」が大事で、一緒に心がけていきましょう。年少児であればあるほど保護者と一緒に手を洗うことが重要です。特に指と指の間、爪がポイントとなります。爪は短く切り揃えておきましょう。また、流水下で手を洗うのが一番ですが、難しいようなら、洗面器にぬるま湯をはり、こどもの手を片手ずつ洗うのがおすすめです。この時も、指間部を丁寧に洗うことが大切です。流水下で手を洗いたがらない、抱えて片手ずつ洗うのも難しい乳児には、赤ちゃん用の除菌ウエットティッシュで拭く方法があります。

一般用の除菌ウエットティッシュはアルコール分が多いので「赤ちゃん用」を選ぶことが大切です。アルコールを避けたい場合は、99%水分含有のウエットティッシュでもかまいませんので、手洗い同様に指間部を丁寧に拭いてください。

余裕がない日々を過ごされているとは思いますが、子どもたちも急に休校になり不安が大きいように思います。メンタル面でも支えてあげられるよう、できるだけ優しく接してあげましょう。調子が悪ければ家にいざるを得ないですが、調子が良いのにずっと家に閉じこもっているのはあまりよくありません。人混みを避けて散歩する等のことをしてみましょう。但し、帰ってきたときは手洗い等を必ず行いましょう。小児期から適切な手洗いが習慣化されることを切に望みます。新型コロナウイルス感染症を巡る子どもに特化した情報を日本小児科学会も「新型コロナウイルス感染症に関するQ&A(2020年2月27日現在)について」を出していますのでぜひ参考にしてください。

また、気温の上昇とともに感染が落ち着くかどうかについては残念ながら今のところなんとも言えません。

最後に、高齢者施設、医療機関等にお勤めの方々においては、感染時のリスクが最も高いと言われている基礎疾患を持った高齢者に感染が及ばないよう、引き続き最大限の注意を払いましょう。

在日コリアンは、高齢者以外では日本語の読み書きに不自由する人はそう多くはありません。しかし他の外国人ではそうでない人もおり、不安を抱えて生活しています。新型コロナウイルス感染症に関する情報が、外国人や障碍を持った人を含めて全ての人々がわかる形で速やかに提供されることを望みます。

主な参照URL

・WHO. https://www.who.int/(英語)(2020年3月2日閲覧)

・厚生労働省.新型コロナウイルス感染症について

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html(2020年3月2日閲覧)

・厚生労働省.新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html

(2020年3月2日閲覧)

・新型コロナウイルス感染症対策専門家会議.新型コロナウイルス感染症対策の見解

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00011.html(2020年3月2日閲覧)

・日本環境感染学会.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応について.http://www.kankyokansen.org/modules/news/index.php?content_id=328(2020年3月2日閲覧)

・ファクトチェック・イニシアチブ.新型コロナウイルス特設サイト.https://fij.info/coronavirus-feature(2020年3月2日閲覧)

・賀来満夫監修,東北医科薬科大学病院感染制御部・仙台東部地区感染対策チーム.新型コロナウイルス感染症市民向け感染予防ハンドブック[1.1版]http://tmpuh.net/新型コロナウイルス感染症_市民向けハンドブック_20200225_1.pdf(2020年3月2日閲覧)

・日本小児科学会.新型コロナウイルス感染症に関するQ&A(2020年2月27日現在)

http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=326(2020年3月2日閲覧)

・日本疫学会 新型コロナウイルス特設サイトリンク集

https://jeaweb.jp/covid/link/index.html(2020年3月2日閲覧)

・「新型コロナ、なぜ希望者全員に検査をしないの? 感染管理の専門家に聞きました」

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-sakamoto(2020年3月2日閲覧)

・全国一斉休校の速報に専門家も「ひっくり返りそうになった」新型コロナ感染拡大防止のためにどこまですべきか?」

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-wada-2(2020年3月2日閲覧)

(畿央大学健康科学部准教授、日本公衆衛生学会認定専門家、医協大阪支部副会長)

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