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〈みんなの健康Q&A〉セクシュアル・マイノリティの基礎知識

2016年12月23日 10:37 文化・歴史

「性的指向」と「性自認」について

ひとことで「性」と言っても、多様な側面がありますが、ここでは「性的指向」と「性自認」について紹介します。

「性的指向」とは、魅力を感じる対象の相手がいるかどうか、その相手が異性か同性か、性を問わないか、ということです。魅力を感じる対象の相手がいて、その相手が同性であれば同性愛、異性であれば異性愛です。英語では「sexual orientation セクシュアル・オリエンテーション」と言います。

世の中の多数の人は異性愛ですが、これは同性愛が異常であることを意味しません。1993年に世界保健機関(WHO)は「同性愛はいかなる理由でも治療の対象とならない」と宣言し、それまでは障害や異常とされてきた同性愛を、疾患のリストから除外しています。

次に、「性自認」とは、自分が自分のことをどう思っているか、自分の性をどう認識しているか、ということです。「心の性」と言うこともあり、英語では「gender identity ジェンダー・アイデンティティ」と言います。

多くの人は、自分が「女性」か「男性」かということに疑いがないかもしれませんが、例えば、「自分の性別は『女性』と『男性』のどちらでもないと感じる」という場合や、「自分は『男性』として育てられてきたけれども、本当は『女性』ではないかと思う」という場合など、性自認は人によって様々です。

「LGBT」をめぐって

最近では「LGBT」ということばもよく聞かれます。「L」はレズビアンで女性同性愛者、「G」はゲイで男性同性愛者、「B」はバイセクシュアルで両性愛者、「T」はトランスジェンダーで、生まれたときに割り当てられた性と異なる性を生きる人のことを指し、それぞれの頭文字を取って「LGBT」と言っています。

この「LGBT」ということばは、短くてわかりやすいのですが、多様な性のあり方の総称であるセクシュアル・マイノリティが、この4類型のみに限定されて理解されてしまい、差別や排除につながる可能性があり、私は適切ではないと考えています。

「LGBT」に当てはまらないあり方として、例えば、アセクシュアルという、他者に対して恋愛の感情を抱くことがない、性的な接触・関係性を持つことがないといった人たちや、複数の人と同時に関係を持つ、ポリアモリーというあり方、自身の性のあり方がよくわからない・分類できないという、クエスチョニングというあり方など様々で、いずれも「LGBT」という枠組みからは見えない存在です。こうした多様な性のあり方を踏まえれば、やはり「LGBT」ではなく、「セクシュアル・マイノリティ」「性的少数者」「性的マイノリティ」など、できるだけ排除や差別につながらない表現が適切でしょう。

統計調査が示すこと

セクシュアル・マイノリティの数については、諸説ありますが、学術的な根拠がはっきりしているのは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校ロースクールのウィリアムズ研究所の調査による、人口の3.8%という数字です(2011年4月に発表された調査の結果。アメリカ合衆国内で「LGBT」のいずれかであると自己認識し、かつ自ら打ち明けている(カミングアウトしている)人の数)。

日本では、電通ダイバーシティ・ラボによる調査の結果として、人口の5.2%(2012年)、あるいは、7.6%(2015年)という数字がありますが、この調査はマーケティング目的で、学術的な根拠に乏しい可能性が高く、信頼できるかどうか疑問が残ります。もっとも、数の多寡は問題の本質ではありませんので、両者を総合して、だいたい人口の数%である、と考えていただければよいでしょう。

さて、3.8%という数字を、日本の人口(約1億2000万人)に当てはめてみると、約450万人です。みなさんのお住まいの市区町村ではどのような計算になるでしょうか。

100人に3~4人と考えれば、30人に1人くらいですから、学校や職場、近所や家族、親戚、お友だちなど、実は自分の身近なところにいるかもしれない、とも言えそうです。

しかしながら、実際に自ら打ち明けている(カミングアウトしている)人は、このような統計上の数に比べて、決して多くはない、というのが現状ではないでしょうか。

セクシュアル・マイノリティに対する差別や偏見、誤解はまだまだ根強く、テレビやインターネットだけでなく、何気ない日常の会話の中でも、突如として、揶揄・嘲笑の対象とされることがあります。そんな恐怖と不安の中では、「(自分がセクシュアル・マイノリティであることを)勇気を出して打ち明けても(カミングアウトしても)、受け入れられないのでは?」「理解されず、傷つくのは自分では?」と考えても仕方ありません。

宝塚大学の日高庸晴教授の調査によれば、「異性愛ではない」ことを理由として、自殺未遂に至る確率は、異性愛者が自殺未遂に至る確率の約6倍との結果が出ています。いかに追い詰められた状況にあるか、ということを強く示す数字です。このような厳しい状況にあるからこそ、打ち明ける(カミングアウトする)人が限られ、結果として、出会う機会が少なくなってしまっているのではないでしょうか。

次回は具体的な事例を踏まえ、どのような困難があるのか、どう行動すべきか、考えたいと思います。

(NPO法人レインボー・アクション 代表理事・事務局長/藤田裕喜(ふじたひろき)さん)

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